はじめに
現在、PET/CTはがんをはじめとした様々な病気の診療に欠かすことのできない検査になりつつあります。
また、昨今はインターネットの発達により、巷には様々な医療情報があふれ出ています。
このコラムは、PET/CT検査に関する様々な疑問をわかりやすく解説し、少しでも安心して検査をうけていただくことを目的としています。
①PET/CT検査、始まりました
2021年4月、先端医療センターでは「断らないがん治療」の実現に向けて、PET/CT検査が始動しました。
記念すべきお一人目の画像を供覧させていただきます。
50歳代の男性のPET全身画像(正面像)です。脳や心臓、肝臓などブドウ糖代謝の盛んな臓器には正常なFDG分布が認められます。これをFDGの生理的集積と言います。
また、必要がなくなったFDGは尿の中へ排泄されますので、腎臓や尿管、膀胱内にもFDGが集まっています。これも正常な所見です。
脳、心臓、肝臓、腎臓や膀胱にFDGが集まっていますが、生理的な集積(各臓器のブドウ糖代謝を反映した正常な集積)です。
がんを疑うような異常なFDGの集まりは認められません。ほとんど正常と診断してもよいのですが、ひとつ異常な所見があります。それは左腋窩(わきの下)のリンパ節にFDGが集まっていることです。
融合画像
(PET画像とCT画像を重ね合わせた画像)
左腋窩(わきの下)にFDGが集まっています。
図の〇で囲まれたところです。
融合画像(PET画像とCT画像を重ね合わせた画像)で観察すると、小さなリンパ節にFDGが集まっていることがわかります。
さて、これはどのような病気なのでしょうか?
実はこの方は2週間前に予防接種を受けており、ワクチンを左上腕の筋肉内に注射されています。ワクチンは病原体やその毒素を弱毒化または不活化したお薬です。からだの中に入ると、免疫反応が起こり、病原体に対する免疫(抗体)が作られます。この免疫反応は一種の炎症であり、近くにあるリンパ節にも炎症が引き起こされます。炎症病巣でもブドウ糖の代謝が盛んにおこなわれていますので、FDGもよく集まるというわけです。
②生理的集積とは?その1 脳と心臓
PET/CT検査ではFDG(フルオロデオキシグルコース)というブドウ糖によく似た薬を注射して、全身の撮影を行います。
FDGはブドウ糖の取り込みの活発なところに集まります。
一般的にがんや炎症などの病気が存在するところでは、ブドウ糖が盛んに消費されていますので、FDGも集まってきます。また、もともとブドウ糖をたくさん取り込む臓器があり、やはりFDGが集まります。たとえば、脳、心臓、肝臓、扁桃腺や唾液腺などです。
FDGが病変部や臓器に集まることを専門用語で『集積する』といいます。さらに脳や肝臓などの正常な臓器にFDGが集積すること、正常な臓器の活動によって認められるFDGの集積を『生理的集積』と呼んでいます。『生理的集積』とは、各臓器の正常な状態とお考えください。
受診者の皆様にPET画像を理解していただけるように、これから何回かにわたりまして、『生理的集積』についてご説明します。
第1回目は『脳』と『心臓』です。
脳
私たちのからだの中でブドウ糖を最も必要としている臓器は脳であり、全身で消費されるブドウ糖の約25%が脳で消費されています。
したがってPET検査ではほとんどの方で脳には非常にたくさんのFDGが集積します。
ただし、糖尿病や食後で血液中のブドウ糖濃度が高い場合(高血糖の状態)では、すでに脳にはブドウ糖が十分に取り込まれており、FDGの脳への集積と競合していまいます。このため、脳へのFDG集積は相対的に低下します。
脳へのFDG集積が低いからといって、脳の機能が低下しているわけではありません。
心臓
心臓は常に拍動し、全身に血液を送り出しています。心臓も筋肉であり、動くためには多くのエネルギーを必要とします。
ただし、心臓はブドウ糖だけをエネルギー源としているのではありません。他に脂肪酸という物質をエネルギー源として使うこともできます。
ブドウ糖がエネルギー源となっているときには、心臓への高いFDG集積が認められますが、脂肪酸も使って拍動しているときには、心臓へのFDG集積は低くなります。脂肪酸のみが使われている場合には、心臓にはFDGはほとんど集積しません。
脳と同様に、非常に強く集積を認めることもあれば、心臓の機能が低下しているわけではないのにまったくFDG集積を認めない場合もあります。同じ方であっても心臓に集積がみられることもあれば、集積がないことがあり、混乱されるかもしれません。
健常な方々のPET全身画像(正面像)です。
全症例とも脳には高いFDG集積が認められています。
一方、心臓(正確には左心室の心筋)への集積はどうでしょうか?
症例1では脳と同じくらい強い集積を認め、心臓のエネルギー源がブドウ糖であることを示しています。症例2および3では心臓へのFDG集積はそれほど強いものではなく、ブドウ糖のほかに脂肪酸が心臓のエネルギー源となっていると推測されます。>