原発性肺癌(肺がん)
PICK UP
はじめに
肺癌とは肺や気管支に発生する癌のことをいいます。
日本における肺癌死亡数は年々増加していて、2011年には年間7万人を超えました。
2019年のがん統計でも、男性で1位、女性では大腸癌に次いで2番目に多く、男女全体では全がんの中で死亡数が1番多い癌です。
どうして肺癌が増えているのか
年齢別の肺癌罹患率(一定期間に発生する肺癌患者数が全人口に占める割合)を見ると、男性・女性とも年齢が高くなればなるほど、値が高くなっています。すなわち、年をとればとるほど肺癌にかかる可能性が高くなる、ということになります。この事実から、日本では人口の高齢化に伴い、肺癌の患者さんが増えていると考えています。
また、日本はCTスキャン(コンピュータ断層撮影)の保有台数が世界で最も多く、高齢の患者さんを中心に心臓病や他臓器の癌など、他の病気で行う検査の一つとしてCTを撮影する機会も多いと思われます。このため症状のない肺癌が数多く見つかるのではないかと推測しています。
肺癌の危険因子(原因)
肺癌の最大の原因は喫煙(たばこ)です。男性・女性ともに喫煙が肺癌になるリスクを高めることがわかっています。たばこの煙には多くの発癌に関与する化学物質が含まれていて(60種類以上)、癌発生の原因となる遺伝子の突然変異を誘発することが知られています。発癌性物質は低タールのいわゆる‘軽いたばこ’にも含まれているので、軽いものに変えたからといって肺癌のリスクが低くなるわけではありません。また、受動喫煙で問題となる副流煙にも多くの発癌性物質が含まれることがわかっています。
肺癌の症状
肺実質(肺の中身)には私たちが異常を感じる神経は存在しません。そのため、癌が肺表面の胸膜や周囲臓器、もしくは肋骨や筋肉などの胸壁に浸潤するまで全く無症状です。ですから、症状がないので大丈夫、とは言えません。症状がなくても肺癌のリスクがある方(たばこを吸った方、70歳以上の方、親族に癌が多い方)は肺癌検診を受けてください。
手術方法について
当院の肺癌手術の特徴は、胸のカメラ(胸腔鏡:きょうくうきょう)によってモニターに映し出される視野をみながら行う胸腔鏡下手術を標準化していることです。手術前の病期がステージⅠ期の患者さんに対しては、基本この手術を行いますし、ステージⅡ期以上の患者さんでも、積極的に胸腔鏡下手術を考慮します。この手術では、3ヶ所の小切開を置いてカメラの視野をモニターで見ながら肺癌の手術を行います。
①カメラ孔:第7肋間中腋窩線(1.5cm)
②助手孔:第6肋間肩甲骨下角背側(2~3cm)
③術者孔:第4肋間前腋窩線付近(3~5cm)
胸腔鏡下手術を行う理由
①肺癌患者さんの高齢化
日本では人口の高齢化に伴い、肺癌の患者さんが増え、また70歳以上の肺癌患者さんの割合も増えています。このような状況下においては、退院後早期から患者さんに自分らしく過ごしてもらうことも大切だ、と思います。実際、2014年に当院で治療した肺癌患者さん(108例)では、70歳以上の患者さんが全体の6割を占めていました。
②日本では早期肺癌が増加している
日本全体の肺癌手術症例の報告で、肺癌の大きさ(腫瘍径)が年々小さくなってきていて、それに伴い術前の進行度(臨床病期)でステージⅠ期症例が増えていることが報告されています。*1
臨床病期 | 2004年 | 1980年代 |
---|---|---|
Ⅰ期 | 77.90%(IA-54%,IB-23.9%) | 47.70% |
Ⅱ期 | 9.40% | 9.40% |
Ⅲ期 | 11.60%(IIIA-8.1%,IIIB-3.5%) | 27% |
また、早期肺癌では術後長期成績において開胸術と胸腔鏡下手術が同等であることが報告されています。*2
③傷が小さいため痛みが少なく、入院期間も短い
もちろん傷の痛みはありますが、開胸手術と比べて痛いが少ないため、胸腔鏡下手術では患者さんがより早く普段の日常生活に戻ることができる、と考えています。近年の報告では、開胸手術と比べて術後合併症が少ない、またドレーン(術後胸に入れる管)の留置期間が短いことが報告されています。*3
当院における胸腔鏡下肺葉切除症例
症例数 | 122例 |
---|---|
年齢(歳) | 69.6歳(41-84) |
手術時間(分) | 220分(107-459) |
出血量(ml) | 349ml(10-3400) |
術後在院期間(日) | 9.8日(5-30) |
参考文献
*1:Japanese lung cancer registry study of 11,663 surgical cases in 2004: demographic and prognosis changes over decade. J Thorac Oncol 6: 1229-35,2011. Sawabata, et al
*2:Long time survival in video-assisted thoracoscopic lobectomy vs open lobectomy in lung cancer patinets: a meta-analysis. Eur J Cardio-thorac Surg 44: 591-7, 2013. Taioli E, et al
*3:Surgery for early-stage non-small cell lung cancer: a systemic review of the video-assisted thoracoscopic surgery versus thoracotomy approaches to lobectomy. Ann Thorac Surg 86: 2008-16. Whitson BA, et al.