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気胸とは?

気胸とは?

通常は陰圧に保たれている胸腔(きょうくう)内に何らかの原因で空気が流入し、胸腔内の陰圧が保てないために肺が虚脱してしまう状態(疾患名ではなく、結果として生じる病態)、つまり肺がちぢんだ状態のことをいいます。
多くは肺嚢胞(ブラ)からの空気漏れが原因です。

症状は、胸痛、咳、息苦しさ(動いたとき)などです。胸の中でプクプクする感じ(空気の移動による症状と考えています)という方もいます。動いているときだけでなく、じっとしていても起こります。症状の出現は、ある日突然です。

胸部レントゲン写真で肺の縮み具合をみて、治療方針を決定します。

左肺がちぢんだ状態

左肺がちぢんだ状態

症状

  • 胸(背部)痛:時に肩に放散する
  • 呼吸困難、咳
  • プクプクする感じ

発症時の状況

  • 体育の授業中
  • 朝洗面中
  • 通勤電車内
  • 新聞を読んでいたら突然
  • 排便中

気胸(肺虚脱)の程度

胸部レントゲンで虚脱の程度を見ます。

軽度(Ⅰ度) 虚脱肺の肺尖(肺のてっぺん)部が鎖骨陰影より頭側にある
中等度(Ⅱ度) Ⅰ度とⅢ度の中間の虚脱
虚脱肺の肺尖部が鎖骨陰影より下(足)側にある
高度(Ⅲ度) 完全虚脱またはこれに近いもの(50%以上の虚脱)

Ⅱ度以上の気胸は胸に管(ドレーン)を入れて脱気を行う方針です。

気胸(肺虚脱)の程度

旨腔ドレナージ(管を入れて脱気)

管はドレーンパックにつながり、パックは点滴台に固定します。
患者さんは点滴台を持って歩きます。
管の治療で改善すれば管を抜いて退院です。
管の治療だけでよくならないときや、気胸を繰り返すときは手術を考慮します。

胸腔ドレーン

胸腔ドレーン

手術適応

絶対的適応
  • 胸腔ドレナージで空気漏れが続くとき
  • 胸腔ドレナージをしても肺の再膨張が得られない
  • 血胸(1000ml以上の出血もしくは200ml/時以上の持続出血)
  • 両側同時性気胸
相対的適応
  • 再発を繰り返す
  • 初回でも虚脱が高度で気腫性肺嚢胞が画像で確認される
気胸の再発率
手術した場合 10%以下
手術しなかった場合 初回から2回目:30~40%
2回目から3回目:70%以上
(おおまかな目安の数字です)
胸腔鏡手術の侵襲
手術時間 30~60分
出血量 10~20ml
術後入院期間 2~3日間
手術侵襲が少ないため、最近では初回気胸でも手術を行うケースが増えています。

気胸に対しては、原則傷の小さい胸腔鏡下手術を行います。
3ヵ所の穴を開けて肺嚢胞を切り取ります。

  • 手術風景

    手術風景

  • ポート挿入位置

    ポート挿入位置

  • 手術終了時

    手術終了時

気胸はやせた若い男性(10代後半~30代前半)に多い病気ですが、長年タバコを吸った中高年にも起こります。
以前気胸で手術をした患者さんの年齢分布では、若い方だけでなく、50-60歳代にも気胸の患者さんがいました。

手術になった中高年気胸の方は、ほとんどがタバコを10年以上吸っている方でした。

気胸の年齢分布

若年層と中高年層の二層性ピーク

手術になった気胸

手術や入院が難しい場合

急な入院が難しい方には、外来対応できる携帯型気胸ドレナージセットを使用して対応します。

携帯型気胸ドレナージセット

女性気胸(月経随伴性気胸)外来について

女性特有の気胸(肺が縮む病気)があります。その病気は月経随伴性気胸です。
異所性子宮内膜(子宮以外の場所に存在する子宮内膜組織)が腹腔内(おなかの中)を移動して横隔膜や肺に到達し、気胸を起こします。
気胸はもともと男性に多い病気(男性割、女性割)です。その中で月経随伴性気胸はさらに少なく、その頻度は気胸全体の4.3%と報告されています(気胸治療の実態調査、日本気胸・肺嚢胞性肺疾患学会の実態調査)。

この病気に対する考え方は、気胸を専門に治療する呼吸器外科の医師の間でもさまざまで、医師や医療機関により治療方針が異なることも珍しくありません。

当院では子宮内膜症治療のスペシャリストである婦人科の医師と連携して、月経随伴性気胸に対する専門的な医療を提供することを目的として、この外来を開設しました。



特徴

30代・40代に多く見られ、そのほとんどがに発症します。
また一旦発症すると気胸を繰り返すことも多く、閉経を迎えるまでは気胸に対する注意が必要になります。


胸部レントゲン胸部CT

胸部レントゲン写真(左)でⅡ度(中等度)の気胸がみられます。

治療

①ホルモン療法
この病気は子宮内膜症の1病態と考えられており、複数回気胸を認める、もしくは気胸に対して入院加療(胸腔ドレナージ:胸に管をいれて脱気をする処置)が必要になった場合には、ホルモン療法(内服薬が主流)を検討します。

②手術
ホルモン療法を行っても気胸を起こす場合に、手術を検討します。手術は胸腔鏡という胸の手術のカメラを使って、小さい傷で行います。異所性子宮内膜病変は横隔膜の腱中心(ドーム型の横隔膜天井部の線維組織部分)に見られることが多いため、その部分を切除する術式が一般的です。横隔膜の穴が大きい場合にはその部分を縫い閉じる縫縮術をします。肺病変を認める場合には、その部分の肺を切除します。

胸腔鏡手術所見

  • 横隔膜

    横隔膜の腱中心(けんちゅうしん)に多数の異所性子宮内膜組織(矢印)がみられます。

  • 横隔膜部分

    自動縫合器で病変を含む横隔膜部分を切除します。
    横隔膜切除部をサージセル®で被覆します。

  • 顕微鏡所見

    切除した横隔膜の顕微鏡所見です。
    横隔膜内に子宮内膜組織がみられました。

  • 免疫染色

    組織学的にも異所性子宮内膜が証明されました。

この患者さんでは術後気胸の再発はありませんでした。
横隔膜の病変を切除すると、たとえ術後に気胸が起こっても、肺の縮む程度が軽くなったり、気胸の回数を減らすことができ、社会(家庭)復帰が可能になります。

術後6ヶ月再発なし

術後6ヶ月再発なし

手術困難な場合

肺気腫、間質性肺炎などもともと肺に基礎疾患がある方に発症する気胸を続発性気胸と呼びます。これらの患者さんは高齢者に多く、手術の難易度が高く、全身麻酔のリスクも高いことが一般的です。このような場合はひとまず胸膜癒着療法という治療を行います。
ミノマイシン(抗生物質)、ピシバニール(抗悪性腫瘍薬)といった薬剤を使用することが一般的で、人工的に胸腔内に炎症を惹起することで肺と胸壁の癒着を促し、肺の穴をふさいでしまうという治療です。ただ、この治療には痛みや発熱を伴うことが多く、場合によっては肺そのものを傷めつけることもある治療方法です。これらの副作用を避けるために、自己血(自分自身の血液)を採取して胸腔内に入れるという治療もありますが、当院では特定生物由来製剤である生体糊とアルブミン製剤を組み合わせて胸腔内に注入することで、比較的良好な成績をおさめています。

有瘻性膿胸

気胸を合併した膿胸のことです。空気漏れを止めなければ膿胸が治ることはないのですが、手術できないような寝たきりの症例が多いため、内視鏡を使用した気管支充填術を行っています。下記のシリコン物質はEWS(Endobronchial Watanabe Spigot)と呼ばれますが、空気漏れの部位へつながる気管支を同定後、これらを詰めることで治療します。

有瘻性膿胸
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